親の介護のお金がない!費用の軽減に役立つ制度や手続きの方法を解説

介護について考えたことのある方の中には、どれくらいお金がかかるのか金額を調べてみた人もいるでしょう。

2021年の平均寿命は男性が81.47歳、女性が87.57歳となっていて、1980年には男性73.35歳、女性78.76歳だったところから、8年も延びたことになります。

長生きになることは良いことですが、それに伴い要介護(支援)状態になる確率も高くなりました。

85歳以上では59.8%が要支援の要介護認定を受けており、2人に1人は介護が必要な時代になっています。

では自分の両親、そして自分が老いたときの介護には、どのぐらいの費用がかかるのでしょうか。

また、その介護費用がない場合はどうしたらよいのか解説します。

介護にかかるお金はどのぐらい?

介護状態となっても、その費用を全額支払わなければならないわけではありません。

要支援・要介護状態となると、介護保険から費用を給付してもらうことができます。

ただ、それだけでは足りない部分もあり、さらに豊かな生活を求めると自己負担額は増していきます。

生命保険文化センターによると、自己負担も含めた介護費用にかかった費用は、介護用ベッドなど一時的な費用として平均74万円、月々の費用として平均8.3万円となりました。

介護期間の平均が61.1か月(5年1ヵ月)となっていることを鑑みると、介護期間中の合計は約581万円かかったということになります。
引用:2021(令和3)年度 生命保険に関する全国実態調査|公益財団法人 生命保険文化センター

このような大きな資金を貯蓄で賄うことができれば別ですが、賄えない場合にはどのようにして資金を用意すれば良いのでしょう。

まずは、介護にかかる公的支援を紹介します。

公的介護支援

40歳になると、全員が公的介護保険に加入します。

会社員は給与天引きで介護保険料を支払い、自営業の場合は健康保険料とともに保険料を支払います。

40歳~64歳までは以下の要件に該当したとき、65歳以上は要支援・要介護認定されれば、以下の介護サービスを公的介護保険から受けることができます。

40~64歳の要介護認定
40~64歳の方が要介護認定を受けるためには、要介護状態が以下の疾病に基因する必要があります。

  • がん
  • 関節リウマチ
  • 筋委縮性側索硬化症
  • 後縦靭帯骨化症
  • 骨折を伴う骨粗鬆症
  • 初老期における認知症
  • 進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症及びパーキンソン病
  • 脊髄小脳変性症
  • 脊柱狭窄症
  • 早老症
  • 多系統萎縮症
  • 糖尿病性神経阻害、糖尿病性腎症及び糖尿病性網膜症
  • 脳血管疾患
  • 閉塞性動脈硬化症
  • 慢性閉塞性肺疾患
  • 両側の膝関節または股関節に著しい変形を伴う変形性関節症

介護サービス

介護サービスとは、以下のサービスを1~3割負担で受けられるサービスです。

  • 訪問介護
  • 訪問看護
  • 福祉用具貸与
  • デイサービス
  • デイケア
  • ショートステイ
  • 入居者生活介護
  • 老人ホーム   など

介護サービスを受けるには、まず市区町村に設置されている地域包括支援センターに相談、または市区町村窓口で要介護(要支援)認定の申請をします。

その後市区町村の調査員が自宅訪問し、聞き取りをした後に認定結果が通知される仕組みです。

認定されると、介護事業者または地域包括支援センターがケアプランを作成して、サービスを受けることができるようになります。

サービスを受けたときの費用は1~3割の自己負担になり、自己負担割合は所得等に応じて決まります。


画像引用:広島市の介護保険

そして、介護サービスが介護保険で利用できる金額には認定ごとに1ヵ月あたりの上限があり、上限を超える介護サービスは自己負担になります。

要支援1 50,320円
要支援2 105,310円
要介護1 167,650円
要介護2 197,050円
要介護3 270,480円
要介護4 309,380円
要介護5 362,170円

例えば、要介護5で自己負担割合1の方がデイサービスを週に2回、3~5時間受けて5万8,240円かかるとすると、その1割の5,240円が自己負担となります。

さらに、自己負担額が所得に応じた上限額を超える部分については、次に紹介する制度によって還付されます。

高額介護サービス費

介護保険は介護サービスに対して1~3割の自己負担の支払いで済む制度ですが、1か月あたりの自己負担額が高額になった場合、還付される制度があります。

高額介護サービスは、所得に応じて設定された金額を超えて自己負担をした場合、所得に応じて設定されている上限額を超える部分は還付されます。

所得区分 上限額
課税所得690万円(年収約1,160万円)以上 140,100円(世帯)
課税所得380万円(年収約770万円)以上 93,000円(世帯)
市町村民税非課税~課税所得380万円(年収約770万円)未満 44,400円(世帯)
世帯全員が市町村民税非課税 24,600円(世帯)
前年の公的年金等収入金額+その他の合計所得金額の合計が80万円以下等 24,600円(世帯)
15,000円(個人)
生活保護を受給 15,000円(世帯)

例えば、要介護5認定で36万2,170円の介護サービスを受け、1割負担だった場合の自己負担額は36,217円となります。

世帯全員が市町村民税非課税世帯なら、2万4,600円を超える1万1,617円が還付され、月あたり36万2,170円の介護サービスを実質2万4,600円で受けることが可能です。

また、負担額が規定を超えた月の約3か月後に市区町村から申請書が送付され、その書類を返送すれば還付を受けることができます。

継続して介護サービスを受けている場合は、以後申請がなくても自動的に還付されます。

さらに、医療費と合わせて1年間(毎年8月1日~7月31日)の自己負担額が高額になるときには、高額医療・高額介護合算療養費制度を受けられます。

この制度は、医療費に自己負担額と合わせて介護サービスの自己負担額が高額になったときに、所得に応じて設定されている上限額を超える部分の還付を受けられる制度です。

年齢 70歳以上 70歳未満
課税所得690万円以上(年収約1,160万円)~ 212万円 212万円
課税所得380万円以上(年収約770万~1,160万円) 141万円 141万円
課税所得145万円以上(年収約370万~770万円) 67万円 67万円
課税所得145万円未満(年収156~370万円) 56万円 60万円
市区町村民税非課税 31万円 34万円
市区町村民税非課税で所得が一定以下 19万円

課税所得145万円未満の区分の場合は年間56万円超、月平均4.6万円超の自己負担額が医療費と介護サービスを合算してかかったときは、超える部分を還付してもらうことができます。

これには申請が必要で、7月31日以降から2年以内に市区町村に申請して証明書を発行してもらい、その証明書をもって加入している健康保険に申請する必要があります。

老人ホーム

老人ホームには、公的施設と民間施設があります。

公的施設は費用負担が少なくて済みますが、その分入居希望者が多く、所得や要介護度、支援状況等入居条件も厳しくなっています。

一方、民間施設はサービス内容・居住環境・付加価値サービスが充実しているほど、料金は高くなります。

老人ホーム種類 特徴
公的施設 特別養護老人ホーム(とくよう) 要介護3~5で常時介護が必要な方向け施設で終身利用が可能
介護老人保健施設(ろうけん) 要介護1~5で看護や介護が必要な方向け施設で、在宅復帰に向けたリハビリを行う施設、原則3~6か月の利用
介護療養型医療施設 要介護1~5で、常時医療的な管理が必要な方向け施設
ケアハウス 自立している方向けで、要介護1以上の介護型ケアハウス
民間施設 介護付有料老人ホーム 要介護1~5向けで常時介護サービスが受けられる居住施設
住宅型有料老人ホーム 介護サービスを外部で受ける必要があるが、上記有料老人ホームより利用料は安い
サービス付高齢者向け住宅 安否確認と生活相談サービスが最低限付いており、介護サービスは外部で受ける必要がある
グループホーム 認知症の方向けの共同生活を送る施設

民間施設の場合は、入居時に一時金・食費・居住費・介護サービス費用がかかります。

介護サービスは介護保険が適用され、自己負担割合に応じて支払いが必要です。

民間施設は、比較的に入居はすぐ可能ですが、居住環境やサービス内容等で費用が変わり、充実した施設の場合は一時金等が高額になります。

一方で公的施設の場合には、入居時にかかる一時金はかかりません。

食費や居住費、介護サービス費用がかかり、介護サービス費は前述した通り介護保険が適用され、自己負担割合に応じて支払うことになります。

さらに所得が低い方には、次に紹介する「特定入居者介護サービス」が適用され、食費と居住費が軽減される仕組みです。

したがって、金が限られている場合には公的介護施設がおすすめですが、特別養護老人ホーム(とくよう)は入居希望者が多くなかなか入居が難しくなっています。

入居できる順番は、要介護度や家族の支援状況等により点数化されて、苦しい状況ほど優先されて入居できます。

その入居を待つ間、介護老人保健施設(ろうけん)も利用できます。

ただ、ろうけんは在宅復帰をめざすための施設であり、原則入居期間は3~6か月となっているため、3か月ごとの審査で対処命令が出る可能性があります。

そのため、ろうけんを退所してとくように入居できないときは、在宅介護でデイケア等を利用しながら待つことになります。

特定入所者介護サービス

介護保険施設に入所している間にかかる食費や居住費は原則自己負担ですが、以下に当てはまる方は費用を軽減してもらうことができます。

  • 本人、同一世帯全員が住民税非課税世帯
  • 配偶者が住民税非課税
  • 預貯金が一定金額以下(年金収入等に応じて単身世帯500~650万円以下、夫婦世帯1,500~1,650万円以下)

例えば、単身の住民税非課税者で公的年金収入が80万円以下(預貯金が650万円以下)の場合には、食費と居住費が合計10万円のところ、約4万円を軽減してもらうことができます。

介護費用がないときの対策

介護はいつ終わるかわからないため、無理な借り入れはしないようにしなければなりません。

借り入れを行うときも、できるだけ金利が低く、返済の負担が少ないものにする必要があります。

ここからは、介護費用がないときにできる対策について紹介していきます。

生活福祉資金貸付制度

生活福祉金貸付制度とは、都道府県社会福祉協議会が実施する、生活に困窮する方を支援するための貸付制度です。

低金利で借りることができ、65歳以上の高齢の方でも借りることができます。

申し込みは、市町村の社会福祉協議会で行います。

介護費用として使えるのは「福祉資金」としての借り入れで、貸付限度額は580万円以内で、据置期間6か月の後20年以内に返済が必要です。

保証人なしの場合は年1.5%、保証人ありの場合は無利子にて借り入れ可能です。

介護ローン

銀行から、介護資金を借りる方法です。

上記福祉資金と比較すると金利は高くなりますが、金利は年2~5%程度で、担保不要、保証人不要で借りることができます。

ただ、完済時に70歳未満であるなど年齢の条件、収入が継続してあるかどうかの要件があります。

そのため、介護を受ける方、その配偶者は年齢や収入要件から借りることが難しくなります。

介護ローンを借りるのは、介護を受ける方の子どもなどが想定されています。

リバースモーゲージ

リバースモーゲージとは、自宅を担保にして資金を借りる制度で、一括または年金形式で借りたお金を受け取ることができます。

借り入れの返済は申し込み者が死亡後、借り入れ資金を返済または自宅を売却して返済することができます。

生きている間は自宅に住み続けることができ、申し込み者が死亡しても配偶者は住み続けることが可能です。

生きている間は返済をする必要はなく、毎月利息のみを支払います。または、利息も含めて死亡後に売却代金で支払うこともできます。

一方、リバースモーゲージは配偶者以外の居住者がいたり、子どもや孫が住んでいたりすると利用できないことがあります。

その場合、自宅を不動産会社に売却して売却代金を受け取り、自宅は家賃を支払いながら住み続けることができる「リースバック」という方法もあります。

リースバックは、配偶者以外の居住者がいても利用することができます。

この場合、生きている間は家賃を払い続けなければならないことと、売却代金が通常より低くなる可能性があることに注意しなければなりません。

リースバックは子どもが自宅に住む予定がない場合には、介護費用の捻出方法として非常に安心です。また、配偶者も住み続けることができます。

上記2つの方法は、借りることができる資金または売却代金は自宅の価値によって決まります。

特に地方など、不動産価値の低い土地に自宅がある場合、利用できないこともあります。

まとめ

介護が必要な状態になったときは、まず地域包括支援センターに相談するのがおすすめです。

そこで介護認定を受ければ、必要な介護サービスを1割の自己負担で受けることができ、自己負担額が高額になったときも、所得に応じで還付を受けることができます。

それでも、介護費用が不足する場合には、必要な借り入れを行う必要があるかもしれません。

介護はいつ終わるか分からないため、できるだけ公的支援を受けながら、返済できる範囲内で借りるようにしましょう。